羊飼い

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もしもわたしが一台のビデオ・カメラだったのなら、地平線のようにまっすぐなこの目の中に飛び込んできた映像の醜悪さに、あるいは顔を覆ったかもしれない。けれどもあいにくと、わたしには、ビデオ・カメラならばあたりまえに有っているような、心というものがない。ゆえにわたしは、これっぽっちも息をひそめることないどころか、悠然と、彼らの輪の中心に入ってゆこう。そうして彼らを、ひとりずつ順番に、頭のてっぺんからつまさきまで、まじまじと見つめるだろう。なるほど、彼らにはみな髭がない。だから、猫でないことはおろか、狐や狸の仲間でもないことがわかる。もしも彼らが、仮面をつけていなければの話だが。実のところ、彼らは貉でさえない。あらゆる意味で、偕老同穴という言葉ほど彼らからほど遠いものはない。若さというものが非常にしばしばそうであるというひそみに、なにも倣ったわけではなかろうが。(「羊飼い」より)


カテゴリ:
小説

収録作:
「羊飼い」
「とかげ」

PDFページ数:
113p

仕様:
zip(pdf/epub/mobi/書影)

最終更新日:
2021年3月29日

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7.56 MB
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